残業時間(時間外労働時間)の法的上限をどのようにするか? 政府の「働き方改革実現会議」の議論について、マスメディアはしその上限について、80時間(連合の主張)と100時間(経営側の主張)の意見が対立したままになっていると伝えています。
いずれにしても、過労死ラインと言われている月80時間以上について、それを認めるかどうかという話で、労働者の生活と健康を配慮した議論には全くなっていないのです。
そもそも、1日の労働時間は8時間、1週間で40時間という法的規制があります(労働基準法)。百年以上まえから労働運動では1日8時間労働を前提とした要求が作られ続け、そしてそれはヨーロッパの民主主義体制を取る先進諸国では実現されています。
1960年代に先進諸国は飛躍的に伸びた生産力と、民主主義体制に支えられて「豊かな時代」を迎え、労働者は「余暇時間」を楽しむはずでした。
労働分野での後進国ともいえる日本でも、30年ほど前までは週40時間労働の実現が目前と思われる状態でした。労働者は「おいしい生活や」「いい日旅立ち」を満喫するはずでした。
しかし、そのような状況は大きく変わりました。労働組合の交渉力の低下、労働組合の企業内組合化と人事の補完システム化、そして成果主義・実績主義賃金の導入、企業の利益配分における労働者の比率の低下、潜在的かつ深刻な労働力不足が、じりじりと労働時間を伸ばし、いつの間にか月100時間、120時間という時間外労働が常態化し(持ち帰り労働を含めれば更に長時間)、労働者の過労死が社会問題化する日本になってしまいました。
このままでは、日本は労働力を確保できなくなります。それは労働力を最大の資源として利益を生む企業活動の後退を意味します。だからこそ、いま政府は労働問題に力を入れています。その基本は労働者の生活と健康にはありません。あくまでも企業活動の保護です。日本を世界で一番企業が活動しやすい国にするという安倍政権が「働き方改革」に力を入れるのはこのためといえます。
しかし、あくまでも企業のための働き方改革。だから労働者は死なない程度に、フル活用する。時間外労働について、この政府の姿勢は全くぶれません。ぶれるのは企業活動に縛られている日本の「労働者代表」である企業組合組織の「連合」。
繰り返して書きますが、現在、労働基準法で定められている1日の労働時間の上限は8時間、1週間で40時間です。これが基本。そして労働者の代表と使用者が協定をすれば、この週40時間の上限について脱法的に認められる。これがいわゆる36協定です。だからこの36協定は、企業活動についての緊急避難的な意味合いがあります。そして多くの場合、この時間外労働の上限は月45時間で定められています。ただし、ここに例外措置があって、「特別な事情」がある時にはまた別の時間外基準が認められるとされているのです。これを「特別条項付36協定」といいます。今問題になっている80時間とか100時間の問題はここについてです。つまり、例外を認める36協定のさらに例外の過重労働時間について、いかに法定化するかという問題なのです。
そして、政府の「働き方改革会議」の流れからすると、このままでは月80時間とか100時間の時間外労働が「合法化」するということになってしまうのです。これが今回の時間外労働問題の核心です。
そんな!? まさか?と思っている?
いつも緊急避難時な仕事、急な仕事をこなさねばならない、下請け企業労働者。いつも「ありえない」トラブルに見舞われているIT業界労働者にとって(つまり常に「特別条項付き36協定の対象になっている、日本の多くの労働者にとって)、この時間外労働限度時間の法定化は,過労死労働時間の合法化になってしまいます。
だから、下請け、IT企業の労働者がほとんどの私たちユニオンは、この時間外労働限度時間の法定化には大反対なのです。
私たちの要求は1日8時間労働、週40時間の実現と、8時間労働で生活できる賃金(多くの残業をしないと暮らせないという現状は、本末転倒です)、8時間労働の賃金で健康で文化的な暮らしが出来る社会の実現です。
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